伴走談

カメラと生きていきたいから、自分と向き合えない|フォトグラファー文岡茜【Vol.5-01】

働き方に悩んできた当事者たちの、悩みの乗り越えた方や、働き方の工夫を綴るインタビュー記事「伴走談」。

第5弾は、フォトグラファーの文岡 茜(ふみおか あかね)さんです。

大学一回生の秋にカメラを手に入れ、写真を独学で撮り始めた茜さん。

写真という表現媒体に引き込まれていったのは、大学3年生の時に行ったアメリカ留学です。日本とは違った環境で過ごした時間は「リッチ」だったと、彼女は言います。

その中でも、一番大事「リッチ」だと感じた時間は、写真を現像する暗室での時間でした。

暗室の時間はたったひとり。誰とも会話しない。むしろ、ひとりになりたいと思って暗室へ通う日々。

彼女の生き方を模索する、大切な時間になっていました。

遠回りする贅沢さ

茜さんは、モノクロのフィルムを使って、マニュアル一眼レフのカメラで撮影します。

撮影を自動で補助してくれる機能は一切なし。自らピントを合わせ、シャッターを押して、自らの指でフィルムを巻く。現像もプリントも自分で行います。

フィルムのロールの蓋を栓抜きのようなオープナーで開けて、フィルムの端っこをハサミで切って、タンクリールに巻きつけ、巻き終わったらまた端を切って、光を中に入れないフィルム現像タンクに入れます。これを何も見えない、真っ暗闇で行います。

現像、停止、定着の順で薬品を入れて、ゆっくりタンクをしゃかしゃか。水洗し、ドライウェルをまたしゃかしゃかし、一晩以上乾かします。

プリントしたい一枚が決まったら、そのネガを引き伸ばし機にセットし、ピントを合わせます。まずはテストプリントで好みの濃さを出せるように秒数をみていきます。露光させる秒数が決まれば、いざ大きな印画紙で、プリント。現像、停止、定着液の中でゆらゆらと踊る写真たち。現像液の中で浮かび上がってくる瞬間は魔法のような瞬間です。

現像する部屋「暗室」では、セーフライト以外の光は一切許されません。光があると感光してしまい、光があたった部分だけ真っ黒になってしまいます。

完成まで、長くて3日。

出来上がった写真は、カラーではなく、モノクロ。

急にミラーアップになったり、多重露光になったり、予期せぬアクシデントや現像の失敗も。

印画紙が歪んだり、ゴミがついたりすると綺麗な写真にはなりません。

指を押すだけで、誰でも美しい写真を撮れる時代。

なぜ、わざわざ手間をかけるのでしょうか。

遠回りする贅沢さ、ですね。

スマホで撮った方が断然綺麗なのはわかってるし、こんな古臭いアナログで撮影する必要もないです。

全部手作業でやらないといけないっていうのは、必要のない時間をかもしれません。紙も凄くお金がかかる。

でも、この時間とプロセスが私にとって、とても大切なんです。

世界と光が遮断された空間で、自分と向き合う

銀塩写真に出会ったのは、大学3年生の時に行ったアメリカ留学。

元々フォトジャーナリズムを学びたかったが、最初に履修したのはカメラの基本の「き」を学ぶクラスでした。

クラスの教授から、いきなりカメラを持参するように言われたそう。

カメラを使った参加型の授業が、彼女をカメラの世界へ引きずり込みます。

次々と撮影課題が出される。

中には、「不安」と「恐怖」を表現した写真の撮影と、抽象度が高い課題もあったとか。

現像した写真をクラスで見せると、クラスメイト同士で意見が飛び交う。

「より良い写真を撮るにはどうしたらいいか?」

撮影した本人でもないのに、当事者目線でたくさんのフィードバックをもらう。

留学の後半には、自分の展示会も開きました。

しかし、留学先はアメリカ。

日本とは異なった、参加型の授業におもしろみを感じつつも、生活環境の変化に戸惑いもありました。

自然と、ひとりになれる暗室での時間が増えていったそう。

デジタルからちょっと隔離された空間。暗室で作業するっていうのが、自分にとっては凄く、大事な時間やったんやなと、今となっては思います。

光が一切許されない、世界と遮断された空間。

時間をかけて、遠回りして現像する時間が、自分の心を落ち着かせる、大切な時間になっていました。

気づいたのは留学後。写真部での活動に違和感を抱き始めたのがきっかけ。

暗室を使うにも、先輩の同伴が必須。例会に出席しないと、自由に使わせてもらえない。

自分ひとりでやりたいことなのに、必ず人間関係が付きまとう窮屈さ。

だからこそ、「普通」の一般社会と隔離された、自由にひとりになれる時間が、とても貴重で大事なものだった。

「遠回りする贅沢さ」、という言葉を聞いた瞬間に思い起こしたのは、茜さんの高校時代でした。

高校2年の時、クラスに馴染めなかったことや、勉強する意味を見いだせず、不登校となった茜さん。

勉強が追いつかず、卒業後は大学へ進学しませんでした。

卒業後の4ヶ月間、何者でもない、宙ぶらりんな自分。

だからこそ「自分はどうしたいのか?」と、自分へ問う時間になりました。

その結果、「海外に行きたい」という思いに気づいた茜さん。

大学へ行く目的が見つかり、浪人として勉強に励み、卒業から1年後、大学へ進学しました。

大好きなカメラと生きたいから、自分と向き合いたくない

高校時代のお話と共通点を感じることを伝えると、ほんの少し、茜さんの顔が曇ります。

でも、自分と向き合うのって、怖くないですか?

唐突に投げられた言葉。

人生の一つひとつの選択肢を取るか取らへんかは自分次第。だから、選択したことに責任を持ちたいと思ってる。

でも、ちゃんと自分で選択できてない状態。したいけど、できてない。

自分が何者でもないような状態、「宙ぶらりん」な状態で、自分に向き合うのって怖いんです。あんまり望んでる自分じゃないので。

お話を聞いた少し前、勤め先の契約が切れたことや、展示会の日程がいまだに決まっていなかった。

写真で生きていきたいと、自分で選択したことではあるけど、まだ到底実現できていない。

それどころか、自分の手が及ばないところで、自分の身の振りが決まっていく。

理想に近づけず、足踏みをしている自分と向き合えない。

写真もあまり撮れていないと、彼女は言葉を重ねます。写真を制作する時間は、どうしても自分と向き合うことになるから。

彼女の声から、葛藤が見え隠れします。

高校2年生・高校卒業後の時間と違って、自分と向き合い切れない茜さん。

違いはどこにあるのか、とても気になりました。

思えば、留学のお話をしている茜さんは、とても幸せそうな表情をしていました。声もうわずり、身振り手振りも大きかった。

写真と一緒に生きていくために、人生の一つひとつの選択を取っていきたい。責任を持つ自信もある。

だからこそ、今の自分と向き合いたくない。

葛藤の背景には、写真があることに気が付きました。

今も、この先も、いつまでも「発展途上」

しかし、宙ぶらりんな自分と向き合えなくても、受け入れられることはできると、彼女は言葉を続けます。

「今の自分でもいいんや」みたいな。発展途上の自分に自信を持つ感じですかね。

インタビュー時には、次の勤め先も決まり、海外に行く予定やカメラマンのお仕事も、インタビュー当時には決まっていたそう。

すごい変化の多い数ヶ月やった。ネガティブな時間でもあった。けど、この先にはちょっと楽しいことが待ってる。

何が、どうなるかはわかんないですけど。生きていけたらいいなって思ってます。

前向きでいられるのも、留学のおかげだったそう。今までとは全く違う環境・人との出会いが、彼女の価値観に大きく影響しました。

高校生までは真面目で、完璧主義な人だったそう。

しかし、留学先では自分のペースで一歩一歩、自分の人生を歩んでいる人がたくさんいました。

自分のペースを保つことが大切。

今はネガティブでも、必ずポジティブになれる時がある。

茜さんの言葉が続きます。

悩みとか問題って、一生付き纏うんですよ。人生のどんなタイミングでも、目の前に悩みや問題がある。アップグレードされていくだけ。今悩んでることは、将来鼻くそみたいになる。

ずっと目の前におるんやったら、うまく付き合っていく方法を学んでいきたいと思いますね。

どれだけ自分が望んだ人生を歩んでいても、必ず目の前に悩みや問題がある。

乗り越えても、また違った悩みや問題が立ちはだかる。そしてまた乗り越える。

終わりはない。だから発展途上。

だったら、発展途上の自分を受け入れられる人でありたい。

葛藤の中から、前向きさを見いだしていました。

向き合えないけど、受け入れられる。一見矛盾するように感じられます。

ただ、一つわかるのは、茜さんにとって、本当にカメラが大事な存在であること。

そんなカメラと、どのようにして出会ったのでしょうか。

次回、茜さんとカメラの出会いからお話を聞いていきます。

「カメラはコミュニケーションツール」だと、彼女は語ります。

カメラがあるからこそ、人と豊かなコミュニケーションができるようになった。

その時間は、自分のためだったカメラが、人のためのカメラへと変化する、大きなきっかけとなりました。

ライター:かめい(@okame1470
ゲスト:文岡 茜(fumiokaakane

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